小学５年生。
いつも「短剣朴の町」をビデオ鑑賞させていた担任の先生が
産休をとり、校外からピンチヒッターで現れた先生の授業は
強烈に覚えています。
道徳の時間に、突然言ったのです。

「ではこの時間は、この教室のなかで、ひとりで過ごして下さい。
ひとりで過ごすなら、なにをしても一切自由です！」

え、え、え？　とみんなで顔を合わせました。

「はい、本当になにをしてもいいんですよ。
机を移動させてもいいし、椅子を持ち上げてもいいし、
身体を動かしても、独り言を言ってもかまいません。
とにかく、ひとりで好きなことをして過ごして下さい」

それで、周りを見渡しながら、みんなおのおの引き出しから
折り紙を出したり、本を出したりしはじめたのですが、
そっか、好きなことならなんでもいいのかと真に受けた私は、
ランドセルのなかに隠し持っていた、当時大ファンだった
戦隊ヒーロー「超電子バイオマン」のカセットテープを取り出し、
教室のラジカセにセットして聞きはじめました。
ひとりで好きなことなら、音楽聞いてもいいわけだし。

そうしたら、ラジカセのまわりに、大勢が集まり、
椅子を持ってきて円になって座りはじめ、

「本当になにしてもいいんだね。あっ、これは独り言だよ」
「ねえ、『りぼん』貸して。まだ『ちびまる子』読んでないの。独り言だけど」
「独り言だけど、◎◎ちゃん、交換日記はやく回してくれたらうれしいなー」
「キティちゃんのシール１枚ここに置くから、誰かマイメロディのメモ用紙と
交換してくれたらいいな。これは独り言でーす」

など、「広義の独り言」と「狭義の独り言」を悪用した遊びがはじまりました。
男の子は走り回ったり、机の上にのぼってポーズを決めたり。
あっという間に秩序は崩壊してしまったのです。
バイオマンが終わっても、まだまだ私が「宇宙刑事ギャバン」のテープを
かけたりしたので、相当盛り上がってしまったし・・・

先生は、教卓からただニコニコしてこの様子を眺めていましたが、
授業終了のチャイムが鳴ると同時に、ものすごく恐ろしい真顔になり、
そして、教室の後ろに机と椅子をくっつけて座っていたＭ君を指差しました。
Ｍ君は、たったひとり壁に向かって鉛筆をけずっていました。

「彼が一番すばらしい、ひとりの過ごし方をしていました！」

その瞬間、全員が「？？？」な顔。

たしかにＭ君は、ストイックな子で、学校外の陸上チームにも所属する選手で、
ひたすら特訓、特訓、特訓、そのまま陸上競技で大学進学、企業にも入って
いったもんな。

・・・って、今なら、なんとなーく、先生の言いたかったことはわからないでもない。
「広義の独り言」の悪用には深く反省している。
しかし、なにをしてもいいと言ったのは先生だから、音楽かけたことは反省しない。
ただ、当時は全然わからなかった。むずかしすぎた。
わからなかったから、３７にもなるまで、この授業を強烈に覚えているのです。